2019/12/10付日本経済新聞 朝刊

行列にならんでほしい。電球を換えてほしい――。フリマアプリなどで普及した個人間取引がモノの売買の枠を超え、軽作業など仕事のマッチングにも広がり始めた。副業を解禁する企業が増え、会社員などが取り組める環境が整ってきた。昔ながらの「近所の助け合い」をネット経由で利用するイメージだが、身元確認など安心感の醸成は道半ばだ。

「テーブルや椅子などの家具を3500円で組み立てます」。東京都世田谷区在住の有賀雄規さん(36)は仕事のマッチングアプリ「エニタイムズ」で家具の組み立てサービスを販売する。

週に1件ほど依頼を受け、都内を飛び回る。ベッドなどの大型家具は、男性でも1人で組み立てるのは大変だ。有賀さんは「ほかのアルバイトと違って拘束時間が短く、仕事先も自由に選べるので働きやすい」と話す。

エニタイムズでは働き手が提供可能な仕事内容や場所、料金などを示し、お客を募集する。逆に、仕事をしてほしい人が働き手を募集することも可能だ。掲載料は無料で、個人間で契約を結ぶ。取引が成立した場合のみアプリを運営するエニタイムズ(東京・港)が取引額の一定割合を手数料として受け取る。

ここに着目したのが家具小売り大手のイケア・ジャパン(千葉県船橋市)だ。9月からエニタイムズと組み、家具の組み立て講座を受けた人にお墨付きを与える、認定制度を試験的に始めた。現在約10人が認定され、エニタイムズ上でマークを掲げて客にアピールしている。同社の角田千佳社長は「家具の組み立てが苦手な女性が多く、需要は大きい」と話す。

11月時点の会員数は6万2000人。登録している働き手は20代後半~40代前半が多い。仕事内容は家具の組み立てや買い物代行、部屋の掃除など多岐にわたる。

こうした多種多様な仕事は従来、地域の工務店など小規模事業者が担ってきた。エニタイムズでは専門業者でなくても、個人が隙間時間を生かして仕事を請け負える。

核家族化が進み一人暮らしが増える中、ちょっとした軽作業を他人に頼める環境にいない人が増えた。「昔ながらのご近所の助け合いをスマホで効率よく実現できる」(角田社長)という。

情報通信総合研究所とシェアリングエコノミー協会の調査によると、個人や企業の間で技能や知識をやり取りする「スキルシェア」の市場規模は18年度で2111億円。副業を容認する企業の増加が追い風となり、30年度には最大で2兆円弱に拡大するとみる。

デザインなどネット上で提供できる役務を売買する「ココナラ」や、ビジネス経験を生かして助言をする「ビザスク」など、副業の受け皿となるサービスは増えている。だが、ある一定の分野に特化していたり、専門技能が求められたりする場合が多く、ハードルが高いのが実情だ。その点、軽作業なら幅広い人が気楽に始められる。

3月にエントリー(東京・新宿)が始めた「シェアジョブ」は、家事手伝いや場所取り代行などの軽作業をマッチングするサービスだ。利用の拡大を見込み、12月に全国展開した。特徴は登録時にビデオ面談を義務づけていること。働きたい人が写真付きの身分証を示し、エントリーの担当者が本人確認する。

トラブルを避けるため、直接現金の受け渡しはしない。仕事の終了後、アプリ上で依頼者と働き手が相互評価した段階で、セブン銀行のATMから報酬を引き出せる。

ツイッターなどで直接働き手を募集する人を支援するサービスも登場している。「bosyu」では簡単な仕事内容を入力するだけで、SNS投稿用の画像を生成できる。登録者数は5万人を超え、投稿件数は約1万2000件に達した。

サービスを運営するbosyu(東京・渋谷)の石倉秀明社長は「取引の機会が与えられれば、雑用とみなされていたことにも価値が生まれ、『仕事』として認められるようになる」と話す。

軽作業の紹介を強化するのはスタートアップだけではない。リクルートはマンション共用部分の清掃など、短時間から近所で副業ができる「エリクラ」を展開。ギグワークス(旧スリープログループ)も企業が従業員に配布するスマホの設定など、1~2時間などで済む仕事の紹介に力を入れる。いずれも企業からの発注を集約し、働き手に割り振る仕組みだ。

隙間時間を使い、副収入を得たいと考える会社員は増えている。そうしたニーズの受け皿として、軽作業のマッチングは拡大しそうだ。