佐々木俊尚

【佐々木俊尚】シェアしてつながる豊かな暮らし

2017年4月10日、三菱地所のレジデンスラウンジにてジャーナリスト・佐々木俊尚氏によるトークイベント「人生100年時代をどう生きる?これからの豊かな暮らし」が開催されました。後編ではシェアハウスや民泊に見る、これからの豊かな暮らしに迫ります。

シェアハウスが流行る理由

 若い人の間ではシェアハウスが流行っていますね。これからはシェアハウスのような、もう少し自分の生活を外に広げていって、あるいは外のセクションの人たちを巻き込んでいくような暮らし方が増えていくのではないかと思います。

 6,7年前、日本で初めてシェアハウスを大々的にやり始めたのは、六本木にあった六本木よるヒルズという場所でした。六本木の街中にある3LDKのマンションに、男女6,7人が暮らしている。寝室が3つしかないので、みんな雑魚寝で暮らしているんですね。

 こんな暮らしで大丈夫なのかと、当時シェアハウスを主催していた新平くんに「家にいて雑魚寝で、プライバシーもなくて疲れないの?」と聞いてみたんです。すると新平くんは一言「俊尚さん、僕らは今外に出るとみんな一人なんですよ。だから家にいるときくらい仲間が欲しい」と。新平くんのこの一言は衝撃的で、未だに忘れられません。

 昔は外に行けば会社や近所の仲間がいるから、家にいる時くらい一人でいたい、という考え方だったと思います。鬱陶しい街、鬱陶しい社会から外へ外へ逃げていく、というのが昭和のマインドでした。それが今では逆転して、若い人たちはみんなで寄り添って生きていきたいという風に、変わってきているのではないかと思います。

 これって何かというと、今の社会に共同体がなくなってきているのを、なんとかして埋めようとしている、そういう傾向の表れだと思うんですね。終身雇用、年功序列もなくなって、会社が自分の共同体だという感覚が持てなくなってきた。そこにミニマリストだったりシェアハウスという最近の流れが入ってきて、なるべく身の回りを身軽にして人とつながりましょうよという、そういう方向になってきています。

民泊が生み出す共同体関係

 Airbnbのような民泊のサービスも普及し始めています。Airbnbは単に安い部屋に泊まれるだけではなくて、泊まった人(ゲスト)と泊めてあげた人(ホスト)とでちゃんと交流しましょう、交流が大事ですよというシェアサービスなんです。

 この前2月に10日間キューバに旅行に行って、Airbnbで予約した部屋に泊まってきました。キューバは観光客が増えていますが、宿が足りないのでその分民泊で対応しています。そこで泊まった所の大家さんがすごい親切で、毎朝ご飯を作ってくれたり、あそこでイベントをやってるから行ってこいと毎日電話がかかってきたり(笑)とにかくホストとの交流が楽しかったんですね。

 シェアは人と人の新しいつながりを作ります。品川の方で民泊をやっている友人がいて、彼女の家にはよく外国人が泊まりにきます。その彼女がこの間台湾に行ってきたというので、どこに泊まったのか聞いたら「この前民泊で泊まりに来た台湾人に泊めてもらった」と。こういうお互いの家に泊まりあったりする流れも出てきています。

 今の時代、景気が悪くて大変なんだけど、お金がないなりに互いの交流で気持ちを満たしている。それによって新しい共同体関係が生まれる。その方が人生楽しいんじゃないの?という方向に徐々に切り替わりつつあるのかなと思います。

近代の終焉とつながりの時代

 これはある意味、”近代は終わった”んですよ。つまり経済成長の時代が終わったんです。経済成長の時代って長い人類の歴史の中でいうとたかだか200年も続いていない。日本だと明治維新以降ですから、わずか150年しか続かなかったんです。今はだんだんと中世の平常社会に戻りつつあるのではないかと。そういう社会には経済成長とは違う考え方、違う人間関係のあり方が必要なんです。

 最近読んだ幸福学の本の中にあった「年収と幸福は比例するのか」という話を最後に紹介します。アメリカの経済学者の調査によると、年収が上がれば幸福度も増える、その相関関係が続くのは年収750万円まで。750万円を超えるとそれ以上収入が増えても幸福度は高まらないそうです。

 これなんとなく理由がわかるんですよね。750万くらいの収入があれば、とりあえず食べる分には困らない。そこそこ旅行に行ったり、美味しいものを食べたり、人生充足化します。これに+αでお金を使おうとなると家を買うとか、高い車を買うとかそういうことになります。でもそんなものは多分、幸せには直結しないんですよね。

 最低限食べていかなきゃいけないお金は必要です。でもこれからはお金だけではなくて、もう少し人と人のつながりによる安心感を大事にする。そういう考え方にシフトした方が、近代が終わった後の時代に適合するのではないかと思います。

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佐々木 俊尚

作家・ジャーナリスト

1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社で記者、その後月刊アスキー編集部を経て、現在はフリージャーナリストとして活躍。ITから政治・経済・社会・文化・食まで、幅広いジャンルに精通し、40冊以上の本を出版。会員制コミュニティ LIFE MAKERS を運営。ANYTIMESメディア顧問。

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